年末年始の医療ニュースをまとめて解説!【医療ニュース解説】

今回は、2023年末から2024年始に医療界で話題になったニュースをまとめて解説します。
山田悠史 2024.01.12
誰でも

このニュースレターでは、隔週で医療ニュースまとめ、解説記事を配信していきます。今回は、その第一弾ということで、年末年始にあった医療関連の気になるニュースをまとめて解説します。

認知症新薬、予防にも使用開始か

アルツハイマー型認知症の進行抑制に有効とされ、承認を受けたレカネマブという新薬ですが、発症前の予防に使用することが検討されています。今のところ、認知症の「発症前に」「発症予防として」投与することに関しては、まだ臨床試験が完了していません。このため、その是非を現時点で議論することは難しいです。

臨床試験はすでに最終段階まで進行していますので、公表される結果を待つ必要があります。臨床試験の結果が思わしくない場合には、そもそも承認申請すらできないという可能性もあります。

ただし、いずれはこのような方向性になることは十分予想されていたことです。こうした流れを受け、今後はさらに、アミロイドβの蓄積をより早期に、より簡便に、より安価に検出する検査方法の確立、ビジネスが拡大していくでしょう。この話題については今後の有料オリジナル記事で解説したいと思います。

血液製剤不足が深刻です

日本赤十字社によれば、輸血を受ける方の85%が50歳以上である一方、献血をしている方の約75%が50歳未満とのことです。歳を重ねると、様々な病気を併発することで、献血はできなくなるケースが増える一方、輸血を必要とすることが増えるからです。このため、高齢化が進めば進むほど、輸血の需要が増えて、供給が減り、輸血製剤は減ってしまう試算になります。しかし、残念ながら若い世代の献血が勢いよく減ってしまっているようです。

代替案として、記事で取り上げられる一部製剤の輸入のほか、人工血球の開発なども進んでいますが、現時点ではまだ実用化に至っていません。日本赤十字社の試算では、2027年に輸血の需要のピークを迎え、献血者が85万人ほど不足してしまうそうです。

思うような打開策が見つからない中、このような状況をご理解いただき、1人でも多くの方にご協力いただく必要があります。

コロナの変異ウイルス、現状と対策

JN.1と呼ばれる変異ウイルスが流行を広げています。こちら米国ではすでに主要な変異ウイルスとなっており、少なくとも感染伝播や免疫逃避という観点で他の変異ウイルスを凌駕しているようです。

すでに約半数がこのJN.1に置き換わっていて、現時点では、来春までこのJN.1が主要なウイルスの一つであり続けるのではないかと予想されています。

これまでの報告によりますと、特別重症化リスクを増やすというような報告はなく、主要な症状も発熱、咳、倦怠感、筋肉痛や関節痛といったもので、特別な変化はないようです。

このJN.1はオミクロンBA.2.86の子孫で、XBBとも親戚です。XBBに対応して作られた今秋から接種開始となったブースター接種は、このJN.1に対しても有効な抗体を作らせると報告されています。このことから、あらゆる人がこのブースター接種からメリットを享受できると考えられますし、特に重症化リスクの高い方、高齢者には必須のワクチンと言えるでしょう。

肥満症治療薬の利用が急拡大

肥満症治療薬の利用者が世界的に急拡大しています。例えば、イーライリリーが開発したチルゼパチドと呼ばれる薬剤は、臨床試験内の最高用量で体重を20%ほど減らしたと報告されるなど、その高い効果が注目されています。

ただし、急成長分野では、その盲目的な急成長からなんらかの歪みが生まれる傾向がある点に注意も必要だと考えられます。肥満が幾多もの疾病の原因であることは間違いなく、治療に手が届きやすくなることでポジティブな影響が生まれることを期待しますが、同時にそれを上回るネガティブが生まれる可能性を懸念します。

例として、容易に目が向けられるところでは、長期使用による安全性は必ずしもクリアではありません。薬剤使用の増加に伴う甲状腺腫瘍の増加、脱毛、自殺の増加などが懸念され始めています。安全で安価、より多様な健康上の効果が期待できる運動習慣などの介入が軽視されることによる「間接的なネガティブ」も懸念です。

そして何より、より効果的な介入が可能となる物事の上流への関心が薄れ、それが下流に流されていき、ビジネスも大量の金銭の投入も下流でヒートアップしていくのは本当に皮肉なことです。人が溺れる前に未然に防ぐことを放棄して、溺れた後に助けることに躍起になるのに似ています。どちらも大切は大切ですが、下流での仕事の方が派手で目立ちやすいのです。

英国で医師によるストライキが実施されました

日本では考えられないことかもしれませんが、こちら米国ニューヨークでも研修医によるストライキが昨年行われたばかりです。英国の状況は詳しくは存じ上げませんが、米国ではスタッフ(指導医クラス)の医師に比べ「若手医師」と表現される研修医は賃金がはるかに(借金なしではほとんど生活できないレベルに)安価であり、生活費が高くなる一方のニューヨークで生活に困窮し、ストライキが度々企画されています。英国でも同様の状況にあると察します。

実際、私の医療機関でも計画され、ストライキの研修医のカバーをするため早朝に出勤したところで当日朝に交渉がまとまり頓挫したという経験もありました。

医療はインフラでもあり、複数の医療機関でのストライキが起これば、たちまち多くの患者の健康、ひいては命のリスクにもつながります。私自身研修医時代には生活が苦しかったですし、ストライキは研修医に与えられた権利ではあると理解するものの、そのリスクを考えると、良い代替案がないものかと思案してしまいます。

なお、私を含む指導医クラスの医師は勤務医でも個人事業主のような扱いであり、労働組合を持たないため、ストライキをする権利はなく、個人でストライキを計画すればたちまち解雇になるでしょう(涙)

***

以上、医療ニュースとそれぞれのニュースへのコメントをお届けしました。今後のテーマのリクエストやフィードバックなど、ぜひ気軽にご意見をください。それでは、また次のニュースレターでお会いしましょう。

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